【SS】傭兵崩れ
今日も【鍋と樽】は盛況だった。
大テーブルでガキ共が依頼の話だかで騒いでいる。
普段なら俺も混ざっている所だったが、今日は先約が有った。
「よっ、元気そうだな団長。」
「よせよ、俺はもう"傭兵崩れ"だぜ。」
「死に損ないに乾杯!」
俺とサンゼスは四人掛けの席にどっかりと座り、先に頼んでおいたエールを呷った。つまみはブラッドソーセージとふかしイモだ。
一杯飲んだ所で、話は戻る。
「リーンで冒険者やってるって聞いた時は驚きましたよ。」
「鬼のグレンが最初に受けた依頼が子守りってね、クク。」
「フン。俺はもう冒険者だからな、金さえ貰えりゃ何でもやるさ。」
「またまたそんな事言って~、落ち着いたら復帰でしょ?」
「...どうだかな。」
アイツの顔に陰りが見えた。
「そこは"グレン傭兵団の再結成だ!"って言うとこですよ、団長。」
「俺はもう団長じゃねぇよ、ただのグレンデルだ。」
サンゼスは身を乗り出すと、俺の胸ぐらを掴み、怒鳴り始めた。
「アンタがそれでどうすんだ!?皆待ってんだよ!団長の帰りを!」
やっちまった。コイツがキレやすい奴だってことを忘れてた。
大テーブルから何人かがこちらを見つめ、セシリアは不安げな表情を見せる。
悪いなセシリア。俺は心の中で呟いた。
「落ち着けよ。」
「アンタこそ何でそんなに落ち着いてられるんだ!
俺達ぁハメられたんですよ!
あんな目にあって、見返してやらないんですか!?」
「"あんな目にあった"からこそだ。
今更また集まった所で、契約主にハメられた情けねぇ傭兵団でしかねえさ。」
「それとも、また俺を死に損ないにしてぇか?」
少し意地が悪かったか...。サンゼスは手を放すと、椅子に直る。
「おいお前ら!見世物じゃねぇぞ!」
大テーブルから見てた奴等は舌を出すと、あっちに向き直った。こんにゃろう...。
「アンタの事だ、どうせあのガキ共を見守ろうなんて考えてるんでしょ。」
「んなワケあるか、俺は楽して稼ぎてぇだけだ。」
「はいはい、そういうアンタの人情に俺達ぁ付いて来てましたからね...。」
「...冒険者の話、聞かせて下さいよ。」
「ああ?まずはヨルバが冒険者になった話でもするか?」
「はああ!?あのヨルバが!?」
夜はまだ長そうだ。
END